憲法千一夜
新国家論
ルイス・カーンは「なぜ建物は、在るということを欲しているのだろうか」と問うた。
この問いはもともとはハイデガーが『建てる・住まう・考える』において、「世界内存在」の構造を思索するうちに思いついた問いで、そこには建築にも「実存的空間」が問われてもいいのではないかということだった。
本書の著者のノルベルグ=シュルツはこの問いに応じて『実存・空間・建築』(1971・SD選書)を書き、これによって師のギーディオンの建築史的な考究を超えようとした(ぼくが最初に読んだ建築史書がギーディオンの『空間・時間・建築』だった)。
彼は、それ以前の著書の『建築への志向』や『建築の意味』では、もっぱら「形態」をキーワードにして論じていたのだが、このとき、あえて「空間」を主語にした。それはそれで時代を先取りする手法の提示であることを思わせた。だが本書はそこをまたさらに背景の方に向って進み、主語を「空間」から「場所」に変え、空間に定位する「場所」の本来との呼応によって建築が生まれてきたという見方を採るようにした。
本書はこのような「場所」の本来を問うために、プラハ、ハルトゥーム(ナイル河沿岸の植民都市)、ローマの3つの場所をこの順で分析比較して、それぞれに「イメージ」「空間」「性格」「ゲニウス・ロキ」の視点からの解剖を加えた。